いつかのこと
今日は被害届の手続きのために警察へ向かったはずなのに、気づけば静かな迷路の中を歩いているようだった。窓口から窓口へと導かれ、そのたびに新しい紙が現れて、行き先はいつも少し先へと遠のいていく。
人々の声はやわらかく、どこか遠くで響いている。丁寧に紡がれる言葉は確かに優しいのに、不思議と現実感が薄く、決められた流れの中でただ漂っているような感覚になる。
正しさと公平さでできたこの場所は、曖昧さを許さないはずなのに、なぜか輪郭だけがぼやけていく。あの人たちの全ては嘘だ。出口はきっとあるのに、そこへ続く道だけが霞んで見えない。
帰り道、外の空気に触れてようやく現実に戻った気がした。少しだけ疲れて、でもどこか夢から覚めたような一日だった。
