眠らない夜の静寂に、足音をひとつだけ
午前2時。私は歩いていた。未来の私は、ため息をついていた。
「またこの時間に出たのか。懲りないやつだな」靴の音はひとつ。でも心の中には、少なくとも三人いた。
私の影は、地面でずっと文句を言っていた。「夜道は暗くて冷たいんだ。君は上着を着ているが、私は素っ裸なんだぞ」それでも影は、私を見捨てなかった。なぜなら、そういう契約だからだ。
未来の私は、空から見ていた。月の端っこに腰かけて「この夜の一歩が、5年後に効いてくるんだよ」と、なにか知った風に呟いていた。たぶん嘘だ。
私は歩道の亀裂を避けるように歩いていた。すると影が、わざとそこに落ちる自動販売機が光っていた。「夜の希望」みたいな顔をしていたが、全部冷たい飲み物だった。「人生ってのはそういうもんだ」と、未来の私は言った。「押してみなければ、温かいものがないことに気づかない」
公園のベンチに腰かけると、影が先に座っていた。「やれやれ、ようやく止まったか」未来の私は空で寝息を立て始めた。どうやら飽きたらしい。
私は深呼吸した。
この空気は、今しか吸えない。
夜中の散歩は、未来の自分と影といっしょに、この世界の矛盾を手のひらで転がす時間だ。
当地
29℃/19℃
晴
2 km/h