体感温度: 23°

 空は嘘みたいに青くて、雲が1ミリも動かない。

部屋の中には、夜の名残みたいな空気がまだ少しだけ残っていた。
私は、それを残したまま、そっと窓を開けた。

風が入ってきた。湿っていて、やわらかい。
土と草と、遠くのどこかで焼かれたパンのにおい。
どれも私の知らない場所からやってきたような気がした。

隣の家の庭で、老人がラジオ体操をしていた。
背中を丸め、腕を上げ、何かを無理やり引っ張り出すような動き。
見てはいけないと思ったのに、目が離せなかった。
老いというものが朝の光の中に晒されていて、
その静かな残酷さに、少しだけ吐き気がした。

公園の向こうでは、子供たちが走っていた。
わめいて、笑って、全身で夏を消費していた。
あの勢いにまきこまれたら、たぶん私は粉々になると思った。
できれば、誰の始まりにも触れたくなかった。
終わりも、始まりも、今日はどちらも見たくなかった。

麦茶はぬるく、パンは焦げ、蝉の声は濁っていた。
でも空だけは、やけに正確だった。
まるで何も知らないふりで、世界を照らしていた。

この世界は今日も、誰に頼まれるでもなく、
老人を老いさせ、子供を走らせ、
私をここに残したまま、夏を続けていく。

それでも、風は少し気をつかってくれた。
頬を撫でていった手つきは、たしかにやさしかった。

降水確率: 10%
湿度: 77%
3 km/h

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